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BWV49の成り立ちについての考察(あるいは妄想) [曲目解説]

以下はJ.S.バッハの教会カンタータ第49番BWV49と関連して
チェンバロ協奏曲BWV1053についての藤原の私見です。

一応はいろいろ考えた上でBWV49をD-durで再構成したという
ことなんですが、結局はバッハマニアの妄想なので眉につばして
読んでください。ただし最後まで読むような人はきっと
バッハマニア仲間です。

なおバッハマニアの妄想は私だけでなく世界的に展開されています。

1)自筆譜の特徴
歌管弦は#4個、ソプラノはハ音ソプラノ記号、バスはヘ音記号、
オーボエダモーレ、ヴァイオリンはト音記号、ヴィオラはアルト記号、
オルガン"Organo obligato"は#2個、右手ト音記号左手ヘ音記号で
記譜、ほとんど数字なし、重音なし。通奏低音"Basso"の記載なし。
4曲目チェロピッコロ"Violoncello piccolo"はト音記号。

また1曲目にはほとんど音符や譜割りの訂正がなく、原曲を写した
ように思える。
表紙編成
manuscript_inst.jpg
6曲目アリア開始部
manuscript_6top.jpg

2)1曲目シンフォニア:BWV1053からの転用について
 バッハの2台チェンバロのための協奏曲BWV1053(1739年) E-Dur
原曲があるというのはほぼ定説。原曲はケーテン時代
1720年頃作曲のオーボエダモーレ協奏曲D-dur(またはオーボエ
協奏曲F-dur)という推測が主流で録音も多い。
 しかし私見ではBWV1053は1,2,3楽章の繋がりがやや
不自然に感じられるし、特に第3楽章は終楽章らしくない印象
(1楽章らしい)。そこでケーテン時代作曲未発見オーボエ
ダモーレ協奏曲ニ長調が存在し、その第1楽章がカンタータ
第49番1曲目シンフォニアに転用されたと妄想する。
 オーボエダモーレソロはD-durのままバッハ自身が弾くオルガン
ソロになり、弦楽器とリピエーノのオーボエダモーレのために
E-durで伴奏が移調されたとすると、作曲の手間からも一応は
納得しやすい(本当か?!)。

3)第2曲バスアリア
E-durオルガンソロの右手フレージングはトラヴェルソが最適に
聞こえる。音域は最低音Cis、最高音Dなので未発見のd-moll
トラヴェルソオブリガートのアリアまたはトリオソナタがあると
ぴったり。証拠は全くなく完全に妄想の域です。

4)第3曲レチタティーヴォ
この曲で初めて2カ所だけ通奏低音の数字が記入。

5)第4曲ソプラノアリア
ソプラノ、チェロピッコロ、オーボエダモーレのA-durアリアは
ちょっと異常な構成なのに大バッハ以外には考えられない
他には動かし様のない曲の作り。間違いなくオリジナルで
この曲を中心に全曲を構成したような気がします。

6)第5曲レチタティーヴォ
これは普通のレチタティーヴォ。第6曲へのつなぎ。

7)第6曲デュエット
リトルネッロ形式の器楽的な風合いが強い。以前に作曲した
器楽曲の主題をもとにバスの歌を組み込み、さらにソプラノの
コラールを乗せたような気がします。

以上をまとめて妄想をまとめると
初演日のメンバーはリピエーノ弦楽隊、かなり上手なチェロ
ピッコロ奏者、まあまあ上手なオーボエダモーレ奏者とバッハ自身が
オルガンという設定。チェンバロはなし、または弟子。

バッハの曲全体の構想としては、以上のメンバーを考えて
第4曲ソプラノアリアをまず作曲
→第4曲にあわせて第3曲、第5曲のレチタティーヴォを設定。
→第2曲のバスアリアを幻のフルート付器楽曲から転用して
歌の最初の曲に据える。
→第6曲デュエットは妄想器楽曲をもとに歌をつけて完成。
→第1曲シンフォニアを新たに作るには時間が足りなくなり、
D-durオーボエダモーレ協奏曲の第1楽章をくっつけて全曲完成
(なんて失礼な書き方(^_^;))。

オーボエダモーレ奏者には最初に作ったソプラノアリアの
オブリガート譜面は早めに渡せたが、他の曲は間に合わなかったので
とりあえずリピエーノヴァイオリンとユニゾンにした。

*)チェンバロ協奏曲BWV1053の原曲について
チェンバロ協奏曲BWV1053(1738年頃)はバッハのお気に入り楽章を
集めた曲のようで、BWV169の第1曲シンフォニアはBWV1053の
第1楽章、第5曲はBWV1053の第2楽章。BWV49の第1曲は
BWV1053の第3楽章。
そしてBWV169初演は1726/10/20、BWV49初演はその2週間前
1726/11/03と2週間しか違いません。忙しかったのでしょう。

オーボエ属協奏曲と思われる原曲については、BWV1053の
第1楽章と第3楽章は別の曲のそれぞれ第1楽章で、2曲または
3曲から転用したのではないかと想像。
第1楽章はF-durオーボエでもD-durオーボエダモーレどちらもありか。
第3楽章(BWV49シンフォニア)は音色からも弦楽伴奏の譜割りからも
F-durよりD-durオーボエダモーレの方が素直な印象。ただし曲調は
第3楽章ではなく第1楽章がよさそう。
第2楽章はよくわからない。オーボエの曲ではなかったかも。


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グラウプナー組曲GWV437楽譜校訂覚え書き [曲目解説]

1)自筆譜スコアの特徴
推定作曲年は1737年。
曲全体の題名はなく、冒頭に"Ouverture"と楽器編成を記載。
曲中に楽器名は記載なし。
オーボエダモーレはinAで記譜、通奏低音の数字なし。
曲名または速度記号が記入されているのは
Ouverture, Marche, Gavotte alternat., Sarabande,
Air alternat., Polonaise, Menuetの7曲で1曲は無題。
Ouvertureの各部には速度記号なし

自筆譜冒頭
title.jpg

2)Ouverture
リュリ以来の典型的な序曲。付点リズムのゆったりした二拍子系の
序奏、急速な三拍子系のフーガ風味の中間部、序奏と同じ付点リズムの
締めの構成。速度記号はないが、Grave - Allegro - Graveは
ほぼ確実。Grave冒頭の付点4分音符+8分音符のリズムは、
現代書式では複付点4分音符+16分音符となる。
中間部は6/8拍子で3声部のフーガ風だが、厳密な進行ではなく
かなり自由に展開され、快活な雰囲気を作り出す。

Grave冒頭
grave.jpg

3)Marche
グラウプナーの器楽曲には時々マーチが入っています。
バロックアンサンブル上越2016、上越公演では割愛。

4)無題(Air)
舞曲ではなくオーボエダモーレによる穏やかな歌謡曲。
低音はピチカートを指定。バロックアンサンブル上越2016では
演奏効果を考えて弦楽パート全部ピチカートで演奏します。
冒頭
contentamento.jpg

5)Gavotte alternat.(Gavotte 1), 無題(Gavotte 2)
快速な2拍子のガヴォットの舞曲。Gavotte1ーGavotte2ー
ダカーポしてGavotte1と演奏される。
"alternat(ive)"は交互に演奏の意味。

6)Sarabande
ゆったりした3拍子の舞曲。単純な構成だがオルガンポイントの
ような持続音を効果的に用いている。
冒頭
sarabande.jpg

7)Air alternat. (Air1), 無題(Air 2)
明るい4拍子の器楽曲。エア1はホーンパイプ風の快活な弦楽合奏。
エア2はオーボエダモーレが入り、少し柔らかい中間部を作り、
ダカーポしてエア1に戻る。

8)Polonoise
ポーランド発祥の遅めの3拍子の舞曲。バロック音楽後期の
フランス、ドイツでは盛んに作曲された。
この曲は頻繁に転調し、しかも離れた調性にとんで、独特な
和声感がある。
バロックアンサンブル上越2016、上越公演では割愛。
冒頭
polonoise.jpg

9)Menuet, 無題(Trio 1), 無題(Trio 2)
3拍子の舞曲。メヌエットートリオ1ーメヌエットー
トリオ2ーメヌエットと続けて演奏される。

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教会カンタータ第49番(J.S.バッハ) [曲目解説]

ヨハン・ゼバスチャン・バッハ Johann Sebastian Bach (1685-1750)
カンタータ第49番 われは行きて汝をこがれ求む
 BWV49 Ich geh und suche mit Verlangen
歌詞:作詞者不詳、コラールはフィリップ・ニコライ(Philipp Nicolai)
初演:1726/11/3ライプツィヒ、三位一体後第20日曜日
編成:独唱(ソプラノ、バリトン)、独奏オルガン、Oboe d'Amore、
 2Violin、Viola、Violoncello piccolo、通奏低音

2016年上越公演、佐渡公演演奏者:
ソプラノ:長谷川みちる バリトン:長谷川徹 オーボエダモーレ:藤原 満
ヴァイオリン:奈良秀樹、伊野江利子 ヴィオラ:渡辺みほ
チェロ:上野敦子 チェンバロ:笠原恒則

三位一体後第20主日(だいたい秋)のためのカンタータ。
バスとソプラノソリのためのカンタータはDialogue cantata
(対話カンタータ)と呼ばれる。カンタータ第58番、第152番、
第32番、第57番が同じ形式。
バスがイエス、ソプラノは魂を表し、対話劇のように進行する。

自筆譜スコアはオルガン以外ホ長調、オルガンはニ長調で記譜されており
低ピッチの弦管と高ピッチのオルガンの組み合わせである。また、
第1曲シンフォニアはオーボエダモーレ協奏曲からの転用と推測される。
以上を踏まえ、今回は原曲のホ長調をニ長調に移調し、さらに
オルガン独奏パートをオーボエダモーレとヴァイオリンに振り分けた
編曲版を用いる。またチェロピッコロはチェロで演奏する。
詳細は別項で解説

第1曲 シンフォニア(器楽のみ)
 今回はオルガンソロをオーボエダモーレで演奏する。チェンバロ
協奏曲BWV1053第3楽章として残っている幻のオーボエダモーレ
協奏曲から転用された可能性が高い。BWV1053からは教会
カンタータ第169番にも転用されている。

第2曲 バスアリア
 バス(イエス)が花嫁を探し求めるアリア。
 今回はオルガンソロをヴァイオリンで演奏する

第3曲 ソプラノ、バスレチタティーヴォ
 イエスと魂が出会いの喜びを歌う。
第4曲 ソプラノアリア
 ソプラノ(魂)がイエスに祝福される喜びを歌う。
 ソプラノ、チェロピッコロ、オーボエダモーレの重奏を
 通奏低音が支える。今回はチェロピッコロをチェロで演奏する。

第5曲 ソプラノ、バスの対話レチタティーヴォ
 イエスと魂が結婚の約束を歌う。
第6曲 独唱バスと合唱ソプラノ
 イエスと魂による喜びの重唱。ソプラノはコラール(賛美歌)を
 歌う。今回はオルガンソロをオーボエダモーレで演奏する。

もちろん教会のミサのために作られた宗教音楽ですが、歌詞と
音楽そのままでもほとんどラブソングです。

和文対訳(川端純四郎氏訳) 川端氏Webサイトへ

楽譜:自筆スコア(ベルリン国立図書館)、旧バッハ全集X、新バッハ全集I/25

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序曲(組曲)ホ長調GWV437(グラウプナー) [曲目解説]

クリストフ・グラウプナー Christoph Graupner (1683-1760)
序曲(組曲)ホ長調 GWV437
 Ouverture a 2 Violis. Viola. Oboe d'Amore e Cembalo
作曲:1737年頃
編成:2Violin、Viola、Oboe d'Amore、Cembalo

バロックアンサンブル上越2016 演奏者:
 オーボエダモーレ:藤原 満 ヴァイオリン:奈良秀樹、伊野江利子
 ヴィオラ:渡辺みほ チェロ:上野敦子  チェンバロ:笠原恒則

グラウプナー50歳台半ばに作曲された8曲からなる器楽曲集。
自筆譜には曲全体を示す題名はないが、当時の同様の形式の
器楽曲集を現在の慣例として「(管弦楽)組曲」と呼ぶ。
下段*参照。

構成(※は2016年上越公演では割愛、新潟公演では全曲演奏)
序曲:弦楽器、通奏低音
 Grave4/4拍子 - Allegro6/8拍子 - Grave4/4拍子の典型的なフランス風序曲
※マーチ:弦楽器、通奏低音
エア(自筆譜は無題):オーボエダモーレ、弦楽器、通奏低音
ガボット(1、2):オーボエダモーレ、弦楽器、通奏低音
サラバンド:オーボエダモーレ、弦楽器、通奏低音
エア(1,2):オーボエダモーレ、弦楽器、通奏低音
※ポロネーズ:弦楽器、通奏低音
メヌエット、トリオ1,2:オーボエダモーレ、弦楽器、通奏低音

グラウプナーはJ.S.バッハとほぼ同時期のドイツの作曲家。
ライプツィヒの聖トマス教会附属学校で音楽を学ぶ。同時期には
ファッシュハイニヒェンといったドイツ後期バロック音楽の重要な
音楽家も在籍していた。その後ハンブルグオペラのチェンバロ
奏者を経て(当時ヘンデルもヴァイオリン奏者で在籍)、ヘッセン=
ダルムシュタット方伯の宮廷楽長として生涯を過ごし、約2000曲の
作品が発見されている。うち1400曲程度!は声楽入りカンタータ。

グラウプナーの作品は宮廷外への持ち出しが禁止されていたため、
その後長く忘れられた存在となっていた。20世紀後半になり古楽の
復興とともに再評価されている。2005年にChristoph Großpietschと
Oswald Billによる作品目録がCarus Verlagより出版された。声楽曲を
中心に演奏機会が徐々に増えている。

楽譜:自筆スコア(ダルムシュタット大学図書館)
グラウプナー作品目録Thematisches Verzeichnis der musikalischen Werke
藤原による楽譜校訂覚え書き

*「序曲」「組曲」「管弦楽組曲」について
17世紀後半に付点(現代の書式では複付点)リズムの序奏(通常2拍子)
とそれに引き続く急速な部分(通常6拍子または3拍子)の形式の
バレエ、オペラの序曲をルイ14世の宮廷楽長リュリが確立した。
18世紀前半ドイツではこの形式の序曲にフランス風の"Ouverture"と
名付け、それに続いて舞曲を演奏する曲集が流行した。

作曲者による曲集全体の題名はなく、後世(主に20世紀)になり、
便宜的に「組曲」「管弦楽組曲」といった題名で広まるようになった。
J.S.バッハの「管弦楽組曲BWV1066-1069」もこのパターン。

当時、「組曲"Suite"」と作曲家が名付けるのは、アルマンド、
クーラント、サラバンド(+ジーグ)の組み合わせが原則で、
それにメヌエット、ガヴォット、ブーレ、ポロネーズなどの
舞曲を加えることもしばしばだった。この形式の曲ではバッハの
「フランス組曲」が最も有名。


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